いま、アツい視線が注がれる宿坊。
しかし、ひとことで「宿坊」と言えども、実はその歩みや宿泊者の受け入れ方は実にさまざまで、地域や季節によってもいろいろな楽しみ方があります。
そんな多様で奥深い宿坊をピックアップしてご紹介していきたいと思います。
■今回ご紹介するのは・・・信貴山 玉蔵院(奈良県)
聖徳太子によって開かれた日本最初の毘沙門天ご出現霊場として知られる信貴山(しぎさん) 朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)。江戸時代から宿坊として親しまれてきた塔頭玉蔵院(ぎょくぞういん)は、自然に恵まれた立地を生かした静かな空間。
老朽化によって建て替えられてはいますが、古材を随所に取り入れることで伝統と歴史の長さを感じさせる内外装となっています。
また、玉蔵院の魅力はその規模にもあり、最大200名収容できる大広間から1人客や家族連れに対応した個室まで備えています。
由緒あるお寺でありながらも宿坊に関しては非常にオープンで、参拝や修行体験を目的に訪れる人はもちろん、観光が目的の人にも広く開放されています。
現在は毎年定期的に訪れる信者や日本人観光客のほか、利用者全体の1~2割は「日本の伝統ある場所で宿泊したい!」という外国人。布団や大浴場の使いなど基本的なマナーはご住職や僧侶が英語で説明しているんだそう。
宿坊内にはWi-Fi 完備の談話室もあり、ネット環境が整っているのも現代的。もちろん、外国人からも好評です。
玉蔵院では、希望すれば、写経・写仏や法話、阿息観・阿字観などの瞑想、護摩祈祷、精進料理などが体験できます。実際、宿泊客の大半が朝のご祈祷に参加していて、女性からは写経が人気だそう。
料理も精進料理だけでなく会席料理も楽しむことができます。
何を求めて訪れたのかは人それぞれなため、チェックイン後には抹茶でもてなし、コミュニケーションを図っているそうです。
宿坊を運営する野澤密孝(のざわみつこう)貫主は、「世の流れに応じた変化は必然です。宿泊することで心癒され非日常の時間を味わってもらえたら嬉しい。」と笑顔で答えてくださりました。
宿坊に「泊まる」、「体験する」だけでなく、このような細やかなおもてなしの精神が、リピーターや何代にも渡って訪れる人びとを惹きつけてやまない理由と言えるのではないでしょうか。