料理を通して仏の教えを近づく『精進料理』体験

 

■精進料理とは

「精進料理」は、肉や魚を使わずに、野菜や果物や海草などを用いてつくられた料理のことをいい、もとは、厳しい修行を行う僧たちのための食事でした。仏教では、「料理を作る」ことも、「食べる」ことも大切な修行のひとつとされていて、「精進」とは、勤めに励む、修行に専念するという意味です。
最近では“食”そのものへの考え方から注目を集め、生活習慣病の予防やダイエットの観点からも多方面で取り入れられています。

 

■精進料理の基本

曹洞宗の開祖・道元禅師の著書に「典座教訓」というものがあります。食材の管理方法や道具の扱い方、調理法など、精進料理に対する細かい解説がなされているのですが、この本の中で精進料理の基本とされているのが「五法・五色・六味」という考え方です。

 
五法・・・調理法


煮る
焼く
揚げる
蒸す

 
五色・・・色合い

‥‥米、麦、そばなど(エネルギー)
‥‥大豆(だいず)製品、麩(たんぱく質)
‥‥根菜類(ビタミン、繊維質)
‥‥葉菜類(ビタミン、繊維質)
‥‥海藻、きのこ類(ミネラル)

 
六味・・・味わい

‥‥辛さ
‥‥酢っぱさ
‥‥甘さ
‥‥苦み
鹹(かん)‥‥塩辛さ
‥‥淡い味

この考え方は、もともとは中国の陰陽五行説よりきているようで、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」もこの定式に沿って作られています。日本を代表する「懐石料理」も、もとは精進料理から発展したものだったのですね!
精進料理では、これらを見た目と栄養のバランスを考え、心を込めて丁寧につくられています。命をいただくことに感謝して、おいしくいただきましょう。

 

■精進料理をいただく前に

禅寺(臨済宗)では、食事の前に「般若心経」とともに、食事に対する心がけと作法を説かれた「食事五観文」を唱えます。

 

—食事五観文—

1 一つには、功の多少を計り、彼(か)の来処(らいしょ)を量る。
食事にはいかに多くの人の手数と労力が費やされているか、その苦労を思い、天地自然の恩恵を忘れてはならない。

2 二つには、己が徳行の全欠をはかって供(く)に応ず。
自分の人格の完成を目指し、また自分の務めを成しとげるために食事をする。

3 三つには、心(しん)を防ぎ、過貧等(とがとんとう)を離るるを宗(しゅう)とす。
食べ物に対して不平や不満を抱かず、飲み過ぎ、食べ過ぎの貧る心を起こさないよう、食事は心の修行である。

4 四つには、正に良薬を事とするは、形枯(ぎょうこ)を療ぜんが為なり。
食事は、飢えや渇きをいやし、心身の枯死を免れる良薬と思って、決しておろそかに食べないという心、平和な心持で食する。

5 五つには、道業(どうぎょう)を成(じょう)ぜんが為に、将(まさ)にこの食(じき)をうくべし。
人として正しく生きることを成就するための食事であることに対して、反省と感謝の心を持ち、新たな誓いを心に持ち行うこと。

精進料理が仏教の戒律のひとつ「不殺生戒」(生き物を殺すことを戒める)から肉や魚を使わない料理であることは広く知られていますが、食事五観文に偈げられている内容はそれだけではない、仏の教えの根底となっている“食=いのち”への感謝を感じることができます。

 

■精進料理を食べに行こう

修行僧の簡素な食事を思い浮かべがちな精進料理。しかし、最近の宿坊では、彩り豊かで味わい深い精進料理が提供されていて、その美しい見た目とおいしさに驚きます。
また、一般宿泊者向けにお肉やお魚を使用する施設もありますし、その地域の特産品や旬の食材を使った郷土料理をいただける施設もあります。食事の内容などは、地域や時期により変わることがありますので、予約の際には食事内容を確認してくださいね。

日本の伝統的な料理形式でありながら、工夫を重ねて発展を続ける精進料理を食べに行きませんか?